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戸惑うレンを余所に、もう一人のレンは右手を少し挙げ、指をとある方向へ向ける。レンがそちらに目を向けると、そこには何かが横たわっていた。
≪レン≫「………マシュー…ニノ…」
2人は白い砂漠に、夥しい量の血を撒き散らしていた。息は、もうしていなかった。
もう一人のレンは俯いたまま、また別の方向を指さした。レンは青褪めた顔でそちらを見ると、そこには流砂があった。その中心にルチルが居た。ルチルは仰向けのまま、足から徐々に砂に沈んでいく。レンは流砂の淵まで駆け寄り、ルチルに声を掛けるが、ルチルは眠った様に動かない。十数秒の内に、ルチルは完全に見えなくなった。レンは膝をつき、咽び泣く事しか出来なかった。そこへ、もう一人のレンが近付いてくる。
レンは泣き顔のまま、近付いて来た自分を見る。そこには冷たい眼で自分を見下ろす自分が居た。その侮蔑の表情は直ぐに憤怒の形相に変わった。
「臆病者がぁッ!」
そう吐き捨て、もう一人のレンはまるでボール遊びでもするかの様に、容赦無くレンを蹴飛ばした。レンは吹き飛ばされ、仰向けに倒れた。レンはゆっくりと身を起こし、吹き飛ばされた方向を見る。
そこにはもう自分自身の姿は無かった。代わりに、あの蒼い双眸がこちらを見つめていた―。
レンは医療施設のベッドから跳ね起きた。が、レンは体のいたる所からの激痛に顔を歪め、再び横になった。
≪エリン≫「大丈夫?随分魘されていたわ」
≪レン≫「…大丈夫です」
≪エリン≫「とてもそうは見えないわ。今日もヒアリングは止めておきましょう」
≪レン≫「…いえ、話させて下さい。…私も知りたいのです。あの時、何と遭遇したのか」
エリンの言う通り、レンは喋るのが精一杯といった状態だが、まずはあの日遭遇した塔の主について話した。
≪エリン≫「前脚とは別に羽が…角は2本…鬣…炎を纏う…。…うーん、私も戦った事が無いわ。書庫で調べないと分からないわね」
3年程前までエリンはハンターだったが、その経験からも判断出来なかった。
≪エリン≫「それじゃ、私は調べてくるわね」
≪レン≫「あのっ…まだモンスターについてしか報告を…」
≪エリン≫「…そうね。行動履歴の方は、シノブがどうしても直接あなたから聞きたいって言うから、記録は彼に任せるわ」
≪レン≫「………分かりました」
シノブはルチルの兄で、レンと2人は幼い頃からの仲だった。
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