偽りの世界

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 ――物心ついたとき、両親は既に、夫婦という間柄ではなくなっていた。  戸籍上ではまだその婚姻関係は続いていたけれど、父が帰宅することはほぼなかったし、母もそれが当たり前であるかのように、一人娘の私と同居していた。そして、私にとってはそれが普通だった。  何が原因なのかは分からない。けれどそれでよかった。私にはその世界しかなかったから。  ――小学生の頃。  母と二人だけだった世界に、酔っ払った見知らぬ男が、土足で入り込んできた。
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