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それ程時間をおかずに、別の竿がぐいとしなる。
来た!
今度こそだ。
隆は竿に飛び付くと、手応えを確かめた。
重い。コイツもかなりの大物だ。
桜色の魚体が海中に煌めく姿を想像すると、自然と両腕に力が入る。
隆は慎重にリールを巻き上げた。
しかしその顔は獲物の姿を捉えた瞬間、血の気を失った。
糸の先でもがいているのは、間違いなく先程のレプトケファルスだったからだ。
「くそったれが!なんしよんかぁ!(何してるんだ)」
思わず罵声が口から飛び出る。
やがて先程とほぼ同じ大きさの透明の魚体が、甲板に横たえられた。
また掛かりやがった!
隆はふうふうと肩で息をしながらその魚を睨み付けた。
仕方無くそばにあったバケツに海水を汲み上げると、そいつを中へと放り込んだ。
食うわけでも無いのに殺すのは、漁師としてのモラルとプライドが許さなかったからだ。
こんな珍しい奴がゴロゴロいる訳ではあるまい。
さっき離した奴がまた食い付いたと見た方がいいだろう。
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