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和美は心の中で常に、同じ名字の妙をけなしていた。
(なんであたしが、こんなブスの女と同じ名字なんだろう?名字で呼ばれる度に不快になるわ)
和美は妙に対して、常日頃から冷徹な態度で接していた。
そんなある日の事、社内で打ち上げパーティーが行われ、余興としてビンゴゲームが開催されたのだ。
商品はVUITTONの限定品のバッグ。
それは限定3000個しか作られず、プレミアまでついた逸品だった。
和美の人脈を持ってしても入手困難なこの品は、喉から手が出るほど欲しい物だった。
(絶対に手に入れてやる!)
和美は意気込んだ。
幸い当たりが良く、順調にリーチまでは進んでいたのだ。
司会担当の後輩が次の玉を取り上げる。
5番だ。
6番ならばビンゴだったのだが。
和美は小さく舌打ちした。しかしまだチャンスはある。周りを見た所、リーチなのは自分だけだった。
不意に後ろから、小さな声がした。
「あのう……ビンゴ……みたいです」
和美は我が耳を疑い、慌てて振り返った。
人混みに紛れて小さく手を挙げていたのは、高橋妙だった。
まさか!
余りに存在感が無いので、すっかり忘れていた。
妙はおずおずと前に進み出ると、ビンゴカードを渡した。
司会は一瞬、顔を歪ませたが、確かにビンゴの番号が揃っているのを確認して、バッグを手渡した。
嘘だ!よりによってあんなブスをVUITTONのバッグが当たるなんて!
愕然とする和美の前を、妙はバッグを手に、そそくさと後ろへ下がった。
猫に小判。豚に真珠。余りにも似つかわしく無い組み合わせ。
和美はしばらくの間、呆然と立ち尽くしていた。
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