65人が本棚に入れています
本棚に追加
男は沈黙に耐えかねて自分から言葉を紡いだ。
「なぁ爺さん」
「なんだい?」
男は少女、コトリを見た。
コトリは頭と体を左右に振りながら天井を暇そうに見ている。
「コトリってのは爺さんの孫か?」
この質問に史治はまた目を丸くした。
「本当に何も覚えていないようだね」
史治は息を整えてから言った。
「昨日の夜。君がコトリちゃんを抱えて庭で倒れていたんだ。それで此処に運んだんだよ」
──全く覚えがない。俺は一体何を…………。
「コトリちゃんはすぐ目を覚ましたから色々話を聞こうと思ったんだけど……どうもハッキリしなくてね」
なるほど、それは納得できる。
男と史治はコトリを見つめた。
相変わらず暇そうに天井を見ている。
視線を感じたのか、コトリは二人の方を向いた。
「お話終わった?」
「あと少し待っててね」
そう言って史治は男に顔を向き直した。
「考えていても仕方ない。お腹は空いているかい?」
「あ……ああ」
言われるまで意識していなかったが男はかなり腹が減っていた。
だが、見ず知らずの自分に対して、食事まで用意してもらうなんて申し訳ないと男は思った。
そして彼は今、痛みで体を動かすことができない。これ以上迷惑をかけたくないと思っても、食べさせてもらう他ない。
「申し訳ない。腹は減っているが、体が動かなくて一人じゃ食べられない……」
「それなら大丈夫」
史治はそう言うと今度はコトリに顔を向けた。
──まさか。
待て、待ってくれ。
「コトリちゃん、彼にご飯を食べさせてくれるかな?」
「はぁ~い!」
コトリは右手を上げて元気よく返事をした。
男は気持ちだけで項垂れた。
*
コトリの力では男の体を起こすことができなかったので、男は史治に体を起こしてもらい、食事も持ってきてもらった。
史治はそれが終わるとコトリに、頼んだよ、と言ってすぐに部屋を出ていってしまった。
男はひき止めたかったが、この赤いワンピースの少女こと、コトリと二人でいたくない。
とは……男に言えるはずもなかった。
──嫌がってても仕方ない。
意を決して男はコトリに声をかけた。
最初のコメントを投稿しよう!