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囀ずる雀の声。朝である。
男は目を開けると何気なく身体を起こした。
昨日は全く動かなかった身体だが、今日は違う。
布団から両手を出して握ったり開いたりしてみる。 男の腕には、ミイラ男の腕、と言える程包帯が巻かれている。
まだ痛みは昨日と変わらないが、十分に動く。
記憶の方も昨日と変わらなかった。
しかし、たった一晩で身体が動くようになっただけでも、かなりマシというものだ。
男は立ち上がろうとしたが、右足に重さを感じ、よろめく。
男は原因を探るため布団を捲った。
「……びぃびぃ…………」
…………。
昨日の少女、白鳥小鳥が男の足を掴んでいた。
「……ふん」
男は足を振って小鳥の手をほどき立ち上がった。
今日は何日か、何時なのか。
鏡を見て自分がどんな顔をしているのか。
史治に世話になったことに礼を言わなければ。
三つのことを思いながら扉に手をかけると、後ろから大きな声をかけられる。
「ビービー! おはよぅ!」
男が振り向くと少女の顔が視線のすぐ下にあった。
──さっきまで眠っていたはずなのに……なんて奴だ。
「起きたのか……」
「うん!」
先程まで寝ていたとは思えないほどに元気な声だ。
「ニコニコ、二ー」
……またこれか。
男は聞かなかったことにして素早く部屋を出て扉を閉めた。
廊下に出て男は少し驚いた。
自分が寝ていた部屋からして割と小さな家だと想像したが、廊下を見る限りでは結構大きそうだ。
「待ってよ、ビ~ビ~」
驚きに浸る間も無く、小鳥が扉を開け廊下に入ってきた。
抗議はしているがその笑顔は崩れない。
「少しは大人しくしててくれ」
男は半分怒りで半分懇願気味だ。
「はぁ~ぃ」
返事はいい。どうも怪しいが。
男は気にせず、手近な部屋のドアをノックした。
しかし、返事はない。
少し考え、そっと扉を開けた。
部屋には小さな四角いテーブルと本棚とタンスが置かれていたが、誰もいなかった。
別の部屋もいくつか見てみたが誰もいない。
またノックして戸を開ける。
また誰もいなかった。
しかし、此処は他の部屋と比べ色々なものが置いてあった。
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