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最初に目にはいったのは二枚のポスターだ。
一つ目は、バイクを横から見た写真が何百も並んでいるバイクの名鑑。
二つ目は、綺麗な女性のバストアップで、特に文字は入ってないため映画とかではないらしい。
それらが六畳の和室に張られていると非常にミスマッチだ。
タンスも箪笥と漢字で直したくなるほど純和風の造りであったし、その箪笥の上には木彫りの熊が置かれていた。
そして壁に寄せられた小さな机の上には、小さなこけしが五つ並んでいる。
ミスマッチと言わずしてなんというのか。
不意に小鳥が喋り出した。
「ここ、じーじの部屋だよ」
「本当か?」
「うん!」
……意外とミーハーだな。
少しだけ見渡して扉を閉じた。
「はいらないの?」
「ああ」
人の部屋を人がいない間にじろじろと見たり、中に入ったりするのは失礼というものだ。
男は残り一つの部屋以外全て見た。
台所やトイレも先ほど見たので残る部屋は風呂場だと考える。
特に衣擦れの音も水音も聞こえないので誰かがいる感じはしない。
今、この家には男と小鳥だけしかいないのだろう。 男は自分が寝ていた部屋に戻ろうとして立ち止まった。
そうだ、鏡。
自分の顔を見れば何か思い出すかもしれない。
自分の顔が気になる。というのもある。
ドアを開け、洗面所の鏡を覗く。
少し癖のある黒々とした髪。
男らしい太い眉。
真っ直ぐ通った鼻。
引き締まった唇。
鷹のような鋭い瞳。
良く言えば、精悍。悪く言えば、粗暴。
鋭い顔。
それが男の顔だった。
悪くはない顔だと、男は自分をそう評価した。
正確には、そのぐらいしか感想が出てこなかった。
つまり。
男は自分の顔を見ても何も思い出せなかったのである。
それどころか。
わからないことが増えただけであった。
鏡に写る男の身体は全身包帯だらけだった。
顎から下は全て包帯に包まれている。
ミイラ男の腕、という表現は間違いだったのだ。
──普通ここまでやるか?
確かに全身に痛みがあるが少し大袈裟過ぎやしないだろうか。
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