65人が本棚に入れています
本棚に追加
「もしかしてお前が巻いたのか?」
ずっと後ろについてきている小鳥に男は右手を軽く上げながら聞いた。
「オマエじゃなくてコトリだよ」
「もしかして、小鳥が、巻いたのか?」
「ううん。じーじがやったよ」
爺さんが巻いたんならほどくのは止めよう、と男は思った。
だが仮にもし小鳥が巻いていたのであれば、男はすぐにでもほどいていただろう。
出会って間もないが、男は小鳥が苦手なのだ。
自分の顔を確認したので男はドアを開けて脱衣所から出た。
そのタイミングで、玄関から入ってきた史治と鉢合った。
「おはよう。もう動いて大丈夫なのかい?」
「ああ、爺さんのおかげだ」
「おはよう! じーじ!」
隣に立つ男にはうるさいほど大きい声だ。
対する史治は紳士的で落ち着いている。
「おはよう。コトリちゃん」
「なぁ、じ……」
男が史治に日にちと時間を聞こうとしたとき、小鳥に手を引っ張られた。
「なんだ」
「ビービー。おはようは?」
「は?」
いわないの? と小鳥に言われて気づく。
まだこの老人に挨拶をしていなかった。
さっき小鳥が自分にしてきたときは、何も文句は言わなかったのになぜだろうと、思いながら史治を見ると。
男がおはようと言うのを待ってるみたいだ。
「お……おはよう」
ここは間違いなく男の家ではない。
しかし男は、おはようと言って妙な懐かしさを感じていた。
それになんだか、照れくさい感じもする。
「な、なあ爺さん。今日が何日かわかるか? ついでに時間も教えて欲しい」
「え~と、今日は九月……十日、土曜日のはずだよ。時間は……」
言いいながら史治は腕時計を見る。
「もう八時だね。朝ご飯にしよう」
「ほんとすまない。爺さん」
「私が好きでやってることだから気にしない、気にしない。作るから少し待ってておくれ」
「私もつくる!」
男は嫌な顔をした。
小鳥が作れば殺人的な料理が出来上がるのは必須な気がする。
「コトリちゃんは昨日お風呂に入ってないから、シャワーを浴びてきなさい」
「はぁ~ぃ!」
流石だ……爺さん。
そう思ったのも束の間。
「その代わり、お昼は一緒に作ろうか」
結局そうなるのか……。
最初のコメントを投稿しよう!