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史治が作った朝食はまさに絶品だった。
ご飯は白く艶やかで、それだけで食べられるほどだった。
玉子焼きはふんわりとして、口に含めば甘い香りが一層広がり。
焼き魚は大根おろしがかかっていて、朝には嬉しいさっぱりした味わいだ。
赤と白、両方を使った味噌汁は一口啜るだけで全身が温まった。
男も小鳥も「美味い」「おいしい」以外の言葉は出てこなかった。
朝食の片付けも終わり、一息ついたところで男は口を開いた。
「爺さん、悪いがパソコンをもってないか?」
史治は小鳥を目を見ていたため、男の方に顔を向けた。
「コイツと俺に捜索届が出されてるかもしれない、それを調べたい」
「なるほど、それなら少し待ってておくれ」
史治は部屋を出ていった。
男は手持ちぶさたなため何となく小鳥を見る。
小鳥は兎形に切られた林檎をかじっている。
自分に関係があることなのに呑気なものだ。
この少女は記憶を取り戻したいとは思わないのだろうか。
男がそう考えている間に史治がノートパソコンを抱えて戻ってきた。
「それじゃあ、調べて見るよ」
「あ、いや貸してくれれば俺が……」
男が立ち上がろうとすると、史治はやんわりと制止した。
「いやいや、座っててくれていいよ」
史治はパソコンを開き、電源を入れた。
「でも……」
「私が調べるから」
ニコリ、と笑うその顔は有無を言わさない顔だ。
男は素直に従うことにした。
「わかったよ、じいさんにまかせる」
うん、と頷いて史治はパソコンに向かった。
「君より先にコトリちゃんから調べさせてもらうよ」
「ああ」
それに異論はない。
男は自分の名前すら分からない。
調べる手がかりがないに等しい。
しかし小鳥ならば調べることができる。
それに、と男は思う。
小鳥のことが分かれば自分のことも分かるかも知れない。
「名字が白鳥ってのと15歳ってことは聞いてるか?」
「うん、聞いているよ」
カタ、カタタ、とキーボードを打つ音か響く。
「うーん、シラトリコトリでは一件も出てこないね」
……駄目か。
「それなら言葉を少なくして調べて見てくれ」
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