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星一つなく曇っている夜空を、一つのビルが夕日に似た色に染め上げている。
火に包まれたビルは周囲の建物を燃やし始めていた。
消防隊が必死になって火を消す様を、たくさんの人間が囲んで見つめている。
悲鳴が響き、怒号が飛び交う。
その光景は何処かの民族の儀式さえ連想させられた。
そこから三、四十メートルほどしか離れていないところにある五階建てのビルの屋上から、その様子を見ている二人の姿があった。
一人は十二、三歳程の少女。
少女は赤と黒を基調としたパンクファッションに身を包んでいた。
正統派パンクファッションではない。
所謂ゴスパンクと呼ばれるものである。
無邪気な顔つきをしている少女にはよく似合ってた。
「ねぇ、人間がいっぱいいるよ。BB、殺しちゃお~よ。」
「……その名前で俺を呼ぶな。」
少女の横に立つ男。
黒く、そして白い男だった。
男は、黒いコート、黒いパンツを身につけていたが、シャツだけは着ていなかった。
男の身体には包帯が巻かれていた。
その範囲は広く、足首や指先など隙間なく包帯は巻かれていた。
巻かれていないのは唯一、男の鋭い顔だけだった。
「それに……お前も人間だ。殺す、なんて言うな。」
わかったか、という男の言葉に少女は、
はぁ~ぃ、とニコニコしながら答えた。
少女は男に対して全幅の信頼を寄せているようであった。
男は不満そうに舌打ちをして屋上から炎へと飛び立った。
*
重力によって男が落下することはなかった。
それどころか飛んだ勢いをそのままに、燃えているビルの屋上に降り立った。
男は屋上の扉を蹴破るように開け、素早く中へ入り階段を駆け降りる。
コートと包帯を焦がしつつ、三階まで降りたところで屋上と同様に扉を蹴破った。
どうやらこのビルはホテルのようである。
一番近くのドアには306と刻まれており、壁には細やかな三階の地図のプレートがかけられてあった。
廊下を駆けながら男は妙な違和感に気付いた。
外から見た様子と比べてホテル内の火はそれほど強くはない。
しかし炎はドアや窓と行った出入口全てにまとわりついている。
──最悪だ。
パチパチと火が弾ける音と共に、微かな悲鳴が聴こえてくる。
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