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……チッ。
男は口には出さず心の中で舌打ちした。
家族じゃないと言ったが、男がコトリの家族でない保証はない。
兄と妹、叔父と姪、従兄弟……いくらでも考えられる。
だがもしも家族なのだとすれば、何故この少女に苛立ちを感じるのだろうか。 俺の何がコトリを否定しているのだろうか……
……わからない。
色々と男が考えている内に、史治が電話を終えて戻って来た。
扉を開けてすぐ、史治は男ではなく、コトリに話しかけた。
「コトリちゃん、お昼ごはんを一緒に作ろうって言ったけど、それはまた今度じゃ駄目かな?」
コトリは不思議そうな顔をして、首を傾げる。
「なぜなに?」
日本語としては間違っているがコトリにとっては『何故?』『どうして?』の意だ。
男も史治もそれを察した。
コトリに対して史治は言った。
「おいしいものを食べに行こうか」
それ聞いた瞬間にコトリの顔が、パァ~っと花開くように明るくなった。
「うん!!」
「それじゃあ、遠いところだからすぐ出かけるよ。お外で待っててくれるかな?」
「はぁ~ぃ!」
コトリは走って部屋を出て行く。
突然の発言に男は驚いていた。先ほど食べたばかりだというのに。
「どうしたんだよ、爺さん」
「コトリちゃんは家族から捜索願いが出されてないんだ」
「なっ……それって」
一体何故。
「何故かコトリちゃんが通う学校から捜索願いが出されてる。どういうことか詳しい話は今から聞きに行くから、君も来るかい?」
聞かれるまでもなかった。
行くに決まってる。
「ああ、もちろんだ」
男は立ち上がった。
*
すぐにでも出発しようと思った男だが、その前に着替えを済ますよう史治に言われて気が付いた。
薄いパジャマのズボンを履いているだけで、あとは身体中包帯に巻かれているだけだった。
男は今、男が寝ていた部屋の隣の部屋にあった服を着ている。
下は、タンスの中で一番上にあった色の濃いジーンズを履き、上は、包帯があまり人目に触れないよう、長袖の黒いシャツを着た。 靴下は足先まで包帯が巻かれているので履くのをやめることにした。
服のサイズはちょうどよかった。
むしろ、初めから男の服のように感じる。
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