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「昨日、夕方六時頃、○市にお住まいの会社員、嘉多山耕司さん、47歳が死体で…………」
テレビは相変わらず暗いニュースを届けている。
ここ最近、謎の失踪を遂げ、行方不明者が続出ししている。
そして、その中の数人が全身の血を抜かれた状態、変死体となって発見される事件が何件も起きていた。
比較的広い範囲で起きているため、人間では不可能だと考えられ、現代に甦った吸血鬼の仕業だとか、宇宙人の仕業などと騒がれている。
明るいニュースはないのか。
白鳥陣はそう思いながら、コーヒーのはいったカップを手にとった。
「陣さん、いってきますね」
ちょうどカップを口につけたところで、陣は義弟の真に声をかけられた。
陣は、ちょっと待て、と言うとあわててカップの中身を飲み干した。
「すぐ支度するから」
陣と真の職場は一緒なのである。
急いで準備しようとした陣は、今度は妹の詩織から声をかけられた。
「その必要はないよ、に~さん。だって今日はお休みの日でしょ?」
「そうなのか?」
「陣さん、昨日自分でそう言ってたじゃないですか」
言った。
「忘れてた。」
「全くもぅ、それじゃあ私たち行ってくるから。食器の片付けと、洗濯ものを取り込むの、忘れないでね」
そう言いながら詩織は、自分の腕を真の腕に絡ませて玄関に向かっていった。
二人の手には指輪がはめられている。
去年、陣が結婚させたのだ。
陣と詩織の両親は、陣が11歳、詩織が7歳のときに事故で亡くなり、真は孤児院育ちで両親がいなかった。
そんな共通点からか、陣が高校2年のときに真と出会ってすぐに仲良くなった。
そして、互いの両親がいないことをいいことに、陣が半ば強引に誘う形で真を自分の家に住まわせた。
それから6年後、詩織が真と付き合っていると知った。
両親が早くに亡くなり、今まで妹には辛く、苦しい思いをさせてきた。
早く幸せになってほしいと考えていた陣は、真を焚き付けて強引に結婚させたのだ。
「いってらっしゃい」
いってきます。と二人が返事をするのを聞いてから、陣は二階にある自室へ向かった。
コーヒーを飲んで身体は少し目覚めてしまったが、眠るのだ。
働く男はこうやって英気を養うのである。
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