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 陣は18歳のとき、車の免許をとる際、バイクの免許も取得していた。  もちろん両親のいない家計では、バイクの免許どころか、車の免許ですら取る余裕などない。  陣は幼い頃からバイクに乗ることに強く憧れていた。  さらに、貧しい生活の中で陣は、自分のやりたいこと、欲しいものをずっと我慢してきていた。  同年代の人の誰よりも大人としての考えができる男であったが、年相応の未熟な少年でもあった。  そして、ついに妹に黙って少ない貯金と生活費を崩し、バイクの免許を取得してしまったのだ。  愚かしい行動であるのは分かっていた。  それを後悔もしていたが妹には何もいえなかった。  それから2年後。  陣がいつものように仕事から帰ると、妹の詩織と真が出迎えてくれていた。  二人の後ろには、黒いビッグスクーターが置かれていた。 「兄さん、誕生日おめでとう」  そう言った妹の瞳は、潤み、濡れていた。 「いつもありがとう、兄さん……。私のためにいつも頑張ってくれて、我慢してくれて、本当にごめんね、兄さん…………。」  ごめんね、と何度も繰り返す詩織を見て、陣は妹の深い愛情と己の愚かさを思い知った。  妹は全て知っていたのだ。  陣は泣いた。  両親が亡くなった日の夜、部屋で一人声を押し殺した泣いたとき以来だった。  妹の前で泣くのは初めてのことだった。  そんな昔のことを思い出しながら陣はバイクを走らせていた。  なぜ今、それを思い出すのか。  陣の心は不安に染まっていった。 *  二人が行きそうなところをまわってみたがどこにもいない。  もう日付が変わり、少なくとも一時間は過ぎている。  二人からは相変わらず連絡がはない。  探す宛もなくただバイクを走らせていた。  ふと、見覚えのある車とすれ違った。  古くさく塗装が剥げかかっている自動車だ。  運転席側のサイドミラーに、赤い星のステッカーが貼ってある。  ほんの三ヶ月前に真と二人して職場の先輩に無理を言い譲って貰った車だ。  真と詩織の姿は確認できなかったが、間違いない。  陣はスピードをなるべく殺さないようにUターンをした。  対向車にクラクションを鳴らされたが気にしない。  少し距離が離れたが、間に別の車が入ることなく車の後ろにつくことができた。  ナンバーを確認すると、やはり間違いない。  真の車だ。  陣はバイクを唸らせた。
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