晶子

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  『あれ?』    北村 晶子(きたむら あきこ)は、掃除機を止めた。    特に誰からかかって来るあてなどないのだが、掃除機をかけ始めると電話が鳴っているような気がするのは何故だろうと、首を傾げる。    着信のないことを確認すると、やれやれと晶子は再び掃除機のスイッチを入れた。    結婚して13年、2つ年上の良隆(よしたか)と2人で暮らすこのマンションは2年前に購入した。  ごく普通のサラリーマンである良隆同様、何の特徴も無いマンションではあったが日当たりが良いところが晶子は気に入った。    横長のリビングは、ベランダ面の全てが窓になっている。  朝から夕方まで、時刻によって光がその表情を変えながら、優しくリビングに降り注ぐ。   「私には、この明るさが必要だった……」    窓の向こうに見えるベランダの、色とりどりの鉢植えに目をやりながら晶子はふと、思い出す。
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