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2年前――私は狂っていたのだ。
そう晶子は思う。
封印した筈の嫉妬の炎が、チリチリと再燃するのを感じ、それを振り払うように晶子は窓を開ける。
『幸せの象徴』だとでも言いたげに咲き誇っている草花が、やけに癇に障る。晶子自身が丹精込めて育てたというのに。
「嫌な色だわ」
毒々しいショッキングピンクが若い女を連想させた。
「下品な花!」
晶子は吐き捨てるように呟くと、やっと咲き揃い始めたペチュニアの花をひとつ残らずむしり始めた。
葉だけを残したプランターを見て、晶子は漸く自分を取り戻す。
無表情のまま、ズルズルと半分引きずるような形でそのプランターをベランダの端に追いやった。
横に長いベランダの両端には、似たようなプランターがいくつも置いてある。
花をむしられたまま放置されたそれらは、すでに枯れ果てているものが多く、触れればカサカサと音を立てて崩れ落ちてしまいそうだった。
「あはは……」
枯れた植物のような声で晶子は笑う。
ここは私の心の墓場なのだと、またひとつ増えた花の無いプランターを感情の無い瞳で晶子は見つめた。
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