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(またやっちゃった)
むしり取られた花の残骸をゴミ袋に詰め込みながら、晶子は虚しさを噛み締めた。
(いつになれば、この苦しみから逃れられるのだろう)
表向きには2年前より立ち直って見えるかもしれない。しかし胸のうちの嫉妬や不信感は、むしろ時を重ねるにつれ病的に歪んで行くのが、晶子にだけはわかっていた。
夫の良隆が若い女と浮気をしているのを知った時、それはまだ明らかに輪郭を持った嫉妬と不信感であったと思う。
少なくとも晶子自身、何に怒り、何に傷ついたのかが明確だった分、楽だった。
良隆は『ただの遊びだった。君と別れるつもりはない』と、頼みもしないのにひたすら土下座を繰り返し、晶子の常軌を逸した罵倒にも耐え続けた。
その頃、晶子は子供のいない身軽さでたびたび女友達と飲みに行ったり、時には1泊で温泉旅行に出かけていた。
それを嫌がるどころか、むしろ歓迎している良隆を疑わねばならなかったのだと晶子が後悔した時には遅かった。
世間知らずの晶子は、そんな良隆を『物わかりの良い優しい夫』としか思わなかった。それどころか、自分は夫に信用されている、愛されているのだとさえ感じていたのだった。
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