晶子

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   晶子も良隆も子供好きではなかった。いや、むしろ子供嫌いと言ったほうが正確かも知れない。  だからこそ、結婚後、一向に妊娠する気配が無くとも、別段気にとめることもなかったのだ。    しかし1人娘の晶子の両親の初孫に対する期待は尋常ではなかった。  結婚してからというもの、両親は晶子の顔さえ見れば『孫はまだか?』と質問してくるようになった。のらりくらりと誤魔化す晶子に業を煮やして、母親が地元で有名な不妊クリニックに晶子を強引に連れて行ったのは、結婚してから2度目の秋だった。    良隆は不妊治療には全く興味を示さず、何の協力もしないかわりにひと言も『子供が欲しい』とは言わなかった。  傍観者を決めこんでいた良隆であったが、晶子が妊娠しにくい体質ではあるものの、明らかな不妊の原因はないとわかると他人事では済まなくなってしまった。  検査さえ受ければ、うるさい姑の口を封じられると不承不承良隆は精液検査を受けた。  その結果、精子の数が正常の半分しかないことが判明した。    お互い、絶対に子供を作ることが出来ない体ではないことは証明されたが、結論としては2人揃って妊娠には縁遠い体質なのだ、ということがはっきりしたのだった。    
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