第4話 天贈-ギフト-

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「ごめんね、何もしてあげられなくて――」 「ううん……」  自然と少年の頭の上にまで手が動いたが触れる直前に何も出来ない自分なんかが慰めようとすることがそれを行うことが烏滸がましいように思えて触れなくて、そのまま待ち続けた。  次第に胸が目に見えない何かに締め付けられるように苦しくなってくる。大きくはない少年の涙声が段々と頭の中で大きくなりながら響いてくる 『助けて』    口にはされていないがその言葉は胸の真ん中に突き刺さり、頭に悲鳴が響きわたったような気がした―― 「だいじょうぶか?」 「……ぁ?」  だが、外から駆けられた声に引っ張られるように七海は我に返った。顔を上げてみれば目の前には海翔が一人で立っている。両手に袋を携えて、袋からは何かの匂いが漂わせている。 「ごめん、なんでもない……アレ、お巡りさんは?」 「え……っと、ね――」  口を開こうとしたところで海翔の顔色が悪くなっていないだろかと七海は思った。青白い顔、それはまるで貧血のように血が足りていないとも言うべきか。そして、次の瞬間に海翔は身体を大きく傾けた。 「大洋くん……!」  七海は反射的に立ち上がって倒れた海翔の身体を受け止める。その時、背中に回した手がぬちゃりと濡れたような音と共に何かに触れた。 「え……キャッ!?」  反射的に掌を確認した。すると、手は赤く塗りたくられ、一目でそれを血と認識できて小さく悲鳴を上げた。それでももう片方の手でどうにか海翔を支えた。 「あ、あの……」 「見ちゃ駄目だよ……ごめん、少し席を開けて!」  少年にどいてもらったベンチへ海翔を俯せに寝ころばせる。そこにルカが袋を口に咥えて七海の手元へと運んでくる。  袋の中にはガーゼ、包帯、絆創膏、薬用アルコールの未開封の物が。それとは別に既に開けられたガムテープが入っている。何に使ったのかを考えるよりも先に七海は海翔へと意識があるかを確認するために呼び掛ける。 「っ……頭はハッキリとしてるよ」 「待って、動かないで……救急車を呼ぶ?」 「いや、それには及ばない。買ったやつで止血する……」 「せめて、それぐらいはさせて……少年くん、目を瞑ってて」  有無を言わせる前に七海の手が海翔から上着を脱がせた。黒い上着の裏のシャツに血の色の目立つ白いシャツが露わになる。穴は何ヶ所も開けられているが血は止まっているのか流れ出ていない。
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