第4話 天贈-ギフト-

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「手をあげてくれるかな……」 「……」  渋々と言った様子で海翔は上半身を起こして、両手を上げて服を脱がせる。服の下にあるものを見せつけられて言葉を失った。  開封済みのガムテープの意味を理解できてしまった。時間が惜しい中では一人で包帯を巻くのは難しかったのだろうか、ガムテープが身体にグルグルと巻き付け、張り付けてある。 「ま、まあ……包帯代わりには――」  血を止めるだけの応急手当ともよべない粗末なものへ呆気に取られながらも、七海はガムテープをゆっくりと剥がしてゆく。何重かに巻かれていて、テープ同士の重なった層は容易く剥がれていく。だが、皮膚に直接貼り付けられている箇所にまで差し掛かると感触が変わった。 「……ッ」 「は、剥がすよ……」  肌からテープが外れていくのに伴ってビリビリと音がして海翔の歯ぎしりする音が聞こえてくる。傷口が露になる瞬間は二人揃って呻き声をあげた、傷口は十数ヶ所はあるのが見ただけで分かった。  血は既に止まっているが痛々しいのには変わらなかった。それでも七海はガーゼを手に取り薬用アルコールを染み込ませて傷口に当てていった。拭き取る度に逐一絆創膏を貼り付ける作業を傷口の数だけ繰り返して最後に包帯を手に取り海翔の胴体に巻き付けていき医療用テープで止める。 「あ、着替えもあるんだ……」 「うん。わるい、トイレで着替えさせてくれ――」  フラフラとしながら海翔は公園のトイレへと行った。そして、直ぐに戻って来た。 着替えの黒い厚手のシャツと上着というシンプルなモノが選ばれていた。上下ともに黒で占められた服装は自分の血を誤魔化すためかと七海は思わず勘ぐってしまった。 「平気……?」 「うん、身体の丈夫さには自信が……このザマじゃ、説得力もないね、うん」  蒼白な顔のまま海翔は軽口を叩くが、ベンチにもたれかかている様子に七海は余裕を感じる事はなかった。そして、ふと少年の方へと目をやると目を伏せているのが目に入った。 「大丈夫……?」  身体を震わせる少年に七海は呼び掛けてみた。するとハッと我に返ったようで七海の方へと顔を向けた。目には再び涙が溜めている。そして震える声を口から漏らした。 「ぼくの……せいだ……ぼくの……」  七海の中で少年が自分を責める姿が自分の中で重なった。そして、掛けてやれる言葉を見つけられることは出来なかった。
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