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自分を許せないままの人間が自責から解放してやるなど出来るはずもない。その事に気付くことが出来ない七海には少年の自責を否定したくてもその為のロジックを組み立てる事が出来ない。
「何を気負う必要がある……?」
だがその横から海翔が言葉を発した。顔を向けるともたれ掛かるのを止めていた。相変わらず顔色は悪いが声には少しばかり張りが戻っていて真っ直ぐとチカラを感じさせる眼差しを少年へと向けていた。
「聞いて」
スッと立ち上がって少年の前にまで歩み寄り、姿勢を下げて目線を合わせた。彼に向けられる声は温かいとは言い難かったが、冷たくも刺々しさもなく優しげではあった。
「俺は他人の為に戦ったわけじゃない、自分の為に戦ったんだ。だから、いくら戦って傷ついてもその戦いが俺の本位である限り俺の責任なんだよ。
俺が自分の為に戦って、勝手に傷ついたのに君が気負う事は何もない」
「……でも……」
自分に納得できないという思っているのが――そもそも、それで「じゃあ気にする必要ないね」なんて素直に立ち直れる光景はこの少年に限らず想像し辛い。七海はなんとなく流良なら平気で言いだしそうなとは思ったが。
海翔としても言いたい事は言ったのだろう。次の言葉を探し始めたのか黙り込んだ。だが、次の瞬間にこの場に似つかわしくない「ぐ~」という音が聞こえてきた。
「……あぅ」
少年が恥ずかしそうに音の鳴る腹を手で抑える。だが、ギュルギュルという音は止まってくれない。
「食べ物は今までどうしていたの?」
「最初に……持ち出したものが無くなってから、ずっと……」
「これ、一緒に食べよう」
少年は遠慮がちだったが海翔が引く手に逆らう事はなくそのままベンチに海翔に引っ張られていった。海翔は手提げの付いた紙袋を手に取り、その中から更に紙袋を取り出す。
取り出された紙袋を七海はよく知っていた。それは有名ハンバーガーチェーン店の品物で、七海もよく買っているものだ。彼は警官を呼びに行ったのではなく、買い物をしてきただけなのだろうかと七海は理解した。
「少年くん、手を洗いに行こう。あと、顔も」
「う、うん……」
ご飯にするというならせめて手と口の周りは綺麗にしていた方が良いであろうと海翔から少年の手を繋ぐ係をバトンタッチした。そして、海翔が先程着替えに使ったトイレに向かっていった。
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