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「それと、君のさっきの『ありがとう』は受け取るから君も俺が傷ついたことに悩まないで」
「あ……う……」
海翔に言い返された少年は口ごもり俯いてしまう。そして、七海の方へと視線を向けた。
「ぼく、ぼくのせいだよ……ぼくと一緒にいたから危ない目に合っ――」
「わたしは……少年くんが安心できるまで一緒にいたい……な」
「ぅ……ぅ……」
少年が最後まで言い切る前に七海の言葉が切った。逃げ場を失う少年の側で海翔に苦笑交じりに「大きく出たね……」と呟かれて七海は出過ぎたことを言ってしまたかと思ったが海翔はどこか楽し気な様子で立ち上がった。
「二人とも、そろそろ行こうよ。寒いだろう?」
「そうだね……」
海翔と七海が揃って歩き出した。まだ、少年は尻込みして動き出そうとしなかった。それを見た二人は打ち合わせをすることもなく駆け寄って手を差し伸べていた。
「あ……バッチ……いよ。手……汚れてるよ!」
「わたしはさっきから何度も握ってるよ……」
「そもそもさっき拭いたでしょ?手以外の汚れてるのが気になるなら洗いにいくとしようか、それで済むよ」
少年の両手に温もりが触れた瞬間に、何かが折れた。いやとけたという言うべきだろう
。とかしたのはほのかな温もりか、あるいは依存性の甘い毒のようなものかもしれない。
一度それを知ってしまえば、離したくなくなる。
それが引き裂かれるとなれば強い痛みが伴う、その引き裂かれる痛みを二人は知っている――左手を握る少女は刻まれて痛みを知り、右手を握る少年は刻むことで痛みを知った。
傷をなぞり抉る痛みを人は避ける。傷を癒すためには時に傷を開かなければならない時もある、時には包み込み守らなければならないこともある。開き方を間違えれば傷を抉り、守り方を間違えれば傷口を腐らせることになる。
与える薬も量を間違えれば毒となる。それは身体の傷も心の傷も変わらない、だから甘い毒かもしれないこの温もりも毒にならずに済むかもしれない。
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