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「さっきのこと……話してみようかなって……思う」
「あぁ、なら俺も言う。先に言おうか?」
海翔の意図としては自分が先に告白してその反応を確かめるのが安全策だと提案する。だが、少年は首を横に振った。
「ううん……僕が先に言うよ」
「……そうか」
海翔の中で嫌なビジョンが浮かび上がる――少年の勇気が報われることなく、拒絶され決裂するという結末。その時は海翔は少年の味方につくと決めた。
「ね、ねぇ……あの」
「どうしたの?」
七海は袖を引っ張られて少年の方へと顔を向けた。目があった瞬間に少年は言いよどんで目を反らしそうになるがすぐに見つめなおした。
「あの……あの……」
言葉を詰まらせながら少年は「あの」とばかり繰り返す。それを七海は心配そうにしながらも伝えたいことがあることは伝わったのか待っていた。海翔も黙っていたが内心でこの張りつめた空気が良い形で終わるのを期待しながら待っていた。
「あ……ッ!?」
「どうしたの……?」
だが、告白が済む前に少年が表情を良くない変え方をして、海翔にはその瞬間に伝わった。だが――
「何も感じない……ぞ」
「嘘じゃないよ……!」
海翔は何も感じていない。だが、『自分と少年は感じ取っているモノが違う』という考えが前提として存在するので偽りとは思わずに少年が何を感じ取っているかを考え始めた。だが、答えを探すための思考は響き渡ってきた大声に遮られることになる。
「あー……」
「星の巡りの悪い三人が揃ったからなぁ……まさしく不運の三ツ星メニューよ」
「ごめんなさい……よく分からない……」
その声を聞いた海翔の顔色は貧血と見間違うほどにまで悪くなってゆく。七海も自分の血が引いていくのを感じ、少年は二人の手を強く握った。
忘れようにも忘れられない(さっきまで忘れていたが)大声、穏やかで優しそうな印象を与える。表裏がないぶん性質が悪いと一言で言い切れてしまうそれが流良善人という人間だ。
「見つけたぞ……ッ!!こっちです、お巡りさん!!」
しかも背後には警官らしき制服に身を包んだ人間が二人いる。窃盗の無実はいい、だが身元不明の少年など無条件で身柄を預けられてしまう。その後は施設に預けられる可能性もある。施設の環境が良いとは限らないということを海翔は身を以て知っている。
そして、少年の勇気に水を差す無粋な行為が気に入らなかった
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