第4話 天贈-ギフト-

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「そこの子供が窃盗を働いたと聞いたのですが」 「磯貝さん、この子を頼む――」 「うん……」  七実が少年の手を包むと少年は海翔から離れて空いた手で袖を摘まんだ。警官が切り出すと海翔は立ち上がって警官二人と流良の前にまで歩み寄る。顔には不満と嫌悪感をたっぷりと滲み出ていて海翔が近づいていくだけで空気は切り裂かれそうになるまで張りつめ始めた。 「事故ですよ。あの女の子が財布を入れたまま男の子に上着を貸してしまった、それだけです」  海翔の言葉を聞くと二人の警官は七海のほうを覗き込む。すると、七海は勢いよく首を縦に振って自分から財布を取り出して見せつけて、更には少年の汚れた格好も気にせずに抱きしめた。 「ひゃぁ……!!」 「ごめん、少し我慢してね……」 「臭いの……ぼくから移っちゃう……」 「大丈夫――」  七海の行為はあくまで少年の為を思っての芝居だが、本人だけが知りえる事なので傍から見れば汚れている少年を躊躇なく抱きしめたようにしか見えない。それを流良は気に食わなさそうに見ていた。 「だが、そこの少年は非行を行ったかどうかに関わらず、我々が身元を預かるべきな気がします。君達は身内や知り合いにあのような恰好をさせる人とは思えない、失踪者も我々の管轄内です」  海翔は少年をフォローするのに虚偽を用いていない。そして、警官の言い分には悪意など一切なくただ職務を忠実に果たそうとする精神から発されたものだ。 「あの子自身が家に戻ることを拒否してるとしたら?あの子が自分自身で居場所を探そうとしていてもですか?いくら小さい子供でもその権利くらいあるはずです――」  静かながら海翔の言葉に熱が籠ってくる。芝居や情に訴えかけようとしているわけではなく本音、言い逃れのためのセリフを考えることすらを忘れていた。そして、一 番に警戒しなければならない人間への警戒も。 「離れろ……」 「――ッ!」  警官の脇にいた流良がボソリと呟いた。その声色が不穏なものだと気付いた時には既に行動は始まっていた。助走をつけてからの跳躍――空中で一回転し足を前に出して少年に向かって降下する。 「危ない……ッ!!」  少年に向かって放たれた飛び蹴りを前に七海が少年の身体を覆うように抱きかかえた。その瞬間に七海の肩に向けられた足先がぶつけられて椅子の上から吹き飛ばされた抱きかかえたまま転がった。       
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