第1話 遭遇-エンカウント-

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 だが、銃声が鳴ってから数秒経っても何も変化が無かった。強いて挙げるならウエイブが握った手を肩の上で掲げている程度だ。警官達は放たれた銃弾がどうなったかを確認出来ずにいたが次の瞬間、ウエイブの開かれた手から銃弾が零れ落ちるのが見えた。 「なっ……!!」  そこに狙撃手によって第二射が放たれる――だが、ウエイブはそれを手の甲で軽く弾いてみせた。そして黄昏色の瞳を向けてきた時、警官たち全員が戦慄した。目の前に対峙してるものは自分達が持っている銃器をモノともしない存在のだと実感させられ、警官達は遂に未知なる存在に対しての恐怖で身を支配される。  そして、ウエイブの身体の周りを青い奔流が取り巻き青い光を放った時、彼らは死を覚悟した。 「……え?」  恐怖に支配された身体は次の瞬間に襲い掛かるであろう苦痛に備えて反射的に強張った――だが、痛みはいつまでも感じられず瞼越しに感じていた眩さが収まって警官達は瞼を開くとウエイブの姿は既に無かった。 「さ、探せ!!被害が出る前に奴へ追いつくんだ!!」  警官達は一度、撒かれた故ににウエイブがどういう方法で逃げるかを見ている――跳躍――それも、ただの一跳びでウエイブはそれだけでビルの屋上にまで届いてみせたのだ。更に、この場所に現れたという知らせが届くまでに経った時間はとても短いものだった。  そして、同じ報せが届くことはなかった。異形同士の闘争が無かったことに警官隊達は安堵したものの、それは手掛かりが途絶え追跡が不可能となったという事でもあった。  その一方で夜の摩天楼に青い軌跡を刻みながら駆ける影があった。風よりも速く軽やかに街を抜け出し、しばらく建造物の屋上を跳び移った後で青い光を纏い宙を舞った。  宙を舞った青い球体は誰もいなくなった公園の木々に覆われた自由広場の真上にまで流れるように辿り着き、そこに降りたった。    その瞬間、青い球体は飛沫となって。弾け飛ぶ。そこに現れたのはは少年の姿だった。黒い服に黒い髪、大き過ぎることも小さ過ぎることもない身体――超常的な異形の内から出てきたのは真逆と言っていいほど平凡な少年だった。 「ッ……」  そして、辺りに誰もいないことを見越して降りたったこの場所に憚ることなく仰向けに倒れこんだ。だが、手に持っていたカバンが地に着いたとたんに慌てて上半身を起こして鞄に着いた土を手で払った。  
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