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引き金は雨だけじゃない――トラウマを再生させたより強いファクターはあの時から何度もあった雨よりも、海翔達と過ごした温かな時間だった。彼女の中でフラッシュバックする光景の中に過去の温かな光景が七海へとそう知らせる。
「ッ……ッ……!」
息が苦しくなってその場にしゃがみ込んだ。先日、誘拐された時にウォーマに敗れた海翔が目の前で海に落とされた時と同じ症状だ。かつて巡り会えた『大切な人達』と過ごした温かな時間が脳裏で無理矢理に回顧される。
「そうだ……わたしは……わたしのせいで……」
その思い出は過去に壊れたモノだ。いくら、温もりに満ちていてもその結末の悲しみに引きずり込まれてゆく。そして、引きずり込まれるように七海は完全に膝をついてしゃがみ込んだ。
「ごめんなさい……ごめんなさい……ミカさん……ミト……ッ……ごめんなさい、ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……」
雨を降らせ続ける空を仰ぎながら七海はただひたすらに懺悔を口にすることを繰り返した。それに応える声はなく、雨は彼女を濡らし続ける。
ーどんな顔をしてパーティーを過ごしていたのだろうー
懺悔を繰り返しながら思い返す。あの穏やかな時間は自分には不相応だった――今のこの苦しみは自分の罪を忘れた罰だと思った。
「ごめんなさい……優しくしてもらう資格なんて……なかったんだ……」
自分の罪を忘れて浮かれたのが許せなくなった。
今までずっと忘れなかった、忘れることなんて出来なかったのに――資格がない『あの時』そう思った。でも、勝てなかった――一度でも温もりを知れば、もう孤独には耐えられなくなる。
「ぁ……ぁ……」
それからどれだけ時間が経ったのだろうか。雨が止んでも七海はそのまましゃがみ込んでいた。声はとっくに枯れ果てて、身体は冷え切っていた。それでも、温もりへの渇望は消えていない。
「…………」
うつろな目をしたまま七海はようやく立ち上がって歩き出す。
さっきまで雨の降っていた町を満たす静寂――あまりにも静かすぎて聞こえるはずのない声が聞こえてきた様な気がした。
「ミカさん……ミト……ッ」
少女から零れた雫は涙なのか雨の名残なのかは分からない。ただ、その歩く姿は余りにも哀しげで今にも夜の闇に溶けて消えてしまいそうなぐらいに儚気なものだった。
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