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時は満ちた。
深淵に近しい者の足音が迫ることに気付く者はまだいない。
たった一人の『生贄』を求めて、その者は動き出す。
凡庸な人間には贄になる資格すらない。贄となる資格は波動に選ばれる者、そして心が影で塗り込まれたもの。
起点となる特異点をこじ開ける事で顔を見せる閉ざされた異界への入口となる螺旋階段。
世界を廃墟へ塗りこめる鎧蟲。
原初の衣となった葉を生やす木に実る果実。
「完成させた後は喰いあいだ――アレは私のもの……誰にも渡さない――王の闇影は」
手の中にあるのは禍々しい光を放つ銀の髑髏――それはまるで薄ら寒い笑顔を浮かべているようだった。カラカラに渇いて、恐怖と絶望を始めとするどす黒い感情が注がれるのを待つ盃だ。
これは過去の遺物の本の欠片でしかない。人間が愚かでなければ肉付けされるはずは無い物だ――だが、その時は迫る。
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