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「……ン」
目覚まし時計からアラームが鳴り響く。仰向けの状態、更に目をつぶったまま手だけが目覚まし時計に伸ばされ、アラームを黙らせる。
「痛っ……」
スイッチが切り替わるように寝ぼけることもなく少年の目は完全に覚めた。静かに布団から抜け出すと頭痛と筋肉痛に一辺に襲いかかられるのを感じながら我慢してさっさと紺のジーンズと無地の黒色の服を着替える。
これがウエイブのチカラを持った少年――大洋海翔――の目覚めで繰り返している一日の始まり。
「あぁ、そうだ――」
目には昨日の学生鞄――鞄は結局、交番に届けることは出来なかった。あの騒ぎ――異形の怪物の出現のせいで近隣の交番に駆け込むことは出来なく、加えて放っておくわけにもいかず持って帰ることにした。因みに中身を確認する勇気は持てなかった。
「姉さんが起きる前に話をしとくか――」
階段を下りて下の階へと着く。その階は生活空間である二階とは違い客の座る席や、料理を作る厨房のある『店』といった形をしていた。
「おはよう、広海さん」
「あ、海翔くん……」
まだ朝は早く店は回転していないが、店の中では 男性が一人、準備に取り掛かっていた。線が細く、少しばかり弱々しそうな優男といった風体。なんとなく派手ではなく控えめなこの店の雰囲気にはあっているかもしれないと感じるだろう。彼の名は海本広海、30歳、独身。海翔とは血縁もないが彼らの後見人を引き受けた人物。
「とりあえず、座って……」
側のテーブルへ海翔を促す。海翔は素直に応じて二人は向かい合う形で座り込む。そして、広海が先に口を開いた。
「あぁ……あの昨日はどうだった?」
「特に問題はなさそう、大丈夫だよ」
どこか後ろめたそうに後見人の方である広海は話す。一方で海翔の態度は普通――相手の感じている後ろめたさに乗っかるという風ではない、だが親密というか励ますという風ではない。
「あなた一人で背負い込むことはない。俺達は『共犯者』だ」
「ぼくは君が投げ出してくれるものだと思っていたよ」
「俺みたいな臆病者はこれぐらい持っててようやく安心できる――だから、そんな塞ぎこむことはないし。それに、これで心置きなく衣食住の施しを受けれる」
広海は何か言いたげだったが諦めたようなに視線を伏せてジェラルミンケースをテーブルの上に置いた。海翔はそれを自分の方へと引き寄せる。
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