第3話 河馬 -アーマードフォーム-

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「っ……寒い」  夕方の街に冷たい風が吹き抜ける、海翔は身体に走る悪寒を感じ鳥肌を立てる腕を袖の上から擦った。手には紙袋がその中にはたくさんの封筒が詰め込まれている。  それは高校の願書だった。公立、私立……受験は終わってはいない。今は中学は不登校だが学歴を中学で止めることは将来的に不利なのは分っている。  中学一年の途中から不登校だった身としては学力的な心配はないのだが、問題はそれ以外の学校生活――だ。 「はぁ――」    不安の中で冷たい空気を吸い込んで吐き出した。この話題は憂鬱にしかならない――別に友達が欲しくないわけではない。ただ、自分が不登校になる原因となったようなタイプの人間に接する可能性が出来る事が不安とでもいうべきか。『そんなので学校生活は大丈夫か?』と聞かれれば海翔は「ウチの学校に体験入学してみれば?」とだけ答えるだろう。 「……ふぅ」  なにはともあれ目的の者は手に入れた。後は家に帰るだけだ――突き刺すような風に晒されているのは我慢し難いものだ。もうウォーマなどに遭遇することなく大人しく家に帰りたいものだと思った。  が、どうやらその願いを嗜虐心強めの神様が聞き入れてしまったらしい。次の瞬間、海翔の耳には喧騒が流れ込んできた。その瞬間、海翔は嫌な予感がするのを感じた。それはウォーマの波動を感じるのとは違う――場数を踏むことで得られる類似ケースへの熟達的直観だ。 「なんか……頭が……」  頭痛と共にチラリと反対側のペデストリアンデッキが目に映りこんせしまった。関心を欠片でも持ったその瞬間、耳に流れ込んでくるだけの雑音だったものがクリアなものになってくる。 『謝れ、地に膝を着いて――ほら、早くしろ!!』  その怒号をはっきりと聞き取ったからには海翔ははっきりと顔を音のした方向へと顔を向けた。こういう時はうるさい方を目にするほうだが自然と『彼女』の姿を探した。 「我ながら失礼な考えだが――」 『二度あることは三度ある』――海翔の頭の中にこのフレーズが浮かんでいた。そして、振り返った瞬間に彼女――「磯貝七海」の姿を目に収めて走り出していた。  三度目となった磯貝七海の災難――今度は中年の男に絡まれていた。どうも、彼女の大人しそうな性質はそういう輩――弱い者いじめの好きな性質の持ち主を引き付けてしまうらしい。  
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