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七海の揉めているのは海翔から見れば反対の箇所だったがペストリアンデッキは繋がっている。全速力で駆けつければ一分とて掛からない距離だ。
「なんだってあの子は事あるごとに厄介ごとに巻き込まれているのか……ッ!?」
文句とは裏腹に海翔は勿体ぶることもなく全速力を保ったまま七海のもとへと急行するのだった。
――
――――
「ほら、はやくしろ!!申し訳なく思っているのなら誠意を見せろ、誠意をッ!!」
「……はい」
浴びせられる怒号。七海の表情は少しだけ怯えを含んでいるが『ソレ』だけだ。言い返すこともせず、腰を下ろす。この嗜虐者は相手が抵抗も見せず素直に従ったのが肩透かしを喰らったのだろう。その瞬間、彼の苛立ちは増したようだった。
「なんだ、その態度は……」
「え……?」
「殊勝ぶってこの私を悪者に見せたいのか!!!」
ソックスを履いた膝がコンクリートに着いたときに再び七海に怒号が浴びせられた。七海も流石に困惑して顔を上げた――もっとも理不尽な目に合っているという自覚はあってもそれに対する怒りや悔しさはなくキョトンとしている。
中年の男の苛立ちは七海が何かをするかもしくは何をしなくてもつまり時間が経つごとに苛立ちが増している。顔は見る見るうちに赤くなり、蒸気機関の如き蒸気が噴き出しそうな勢いだった。
「誰が今のお前の顔を見て反省していると思うか……誠意を見せろと言っているのだ誠意をッ!!」
言われたとおりにしたにもかかわらず怒鳴られた事には戸惑わずにはいられなかったようで、戸惑いが顔へ現れる。それと同時に男が手を伸ばす――
「おーい……ッ!!」
だが、そこに妙に陽気で軽い大声が響き渡って男の手が止まった。声が聞こえてきたのは七海の後方から――男は声の聞こえてきた方をキッと睨み付ける。それに一瞬遅れて、七海がした方向を振り向いた。
「ごっめーん、オマタセー、待ったー!?」
軽快な足音を立てながらこちら側に駆けつけてくるのは少年――二度も助けてもらった大洋海翔。ただ、キャピキャピした声と『怖いぐらい』に似合った作り笑顔に違和感を感じずにはいられなかった
「大洋……海翔くん・・・・・・?」
「ごめん、ごめん、遅くなったよ~!!さぁ、行こうよー……」
声だけは明るい。だが声には調子には全く抑揚が含まれてない。がさり気なく七海の肩に手を伸ばして引き寄せる。
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