1068人が本棚に入れています
本棚に追加
抑揚のなく、ぎこちない喋り方に対して七海を引き寄せる際の一連の流れは非常に流暢なものだった――さながら女にだらしない男の手本のような男に見えなくもないのだが。七海のは今までと全く違う海翔の様子に戸惑うしかなくされるがままに海翔に流される形となる。
「待てッ!!」
だが、男はその流れを良しとはしなかった。だが海翔は無視して七海の肩を引き寄せたまま歩き続ける。
「あの……大洋くん?」
「シッ……止まらないで。このまま歩き続けて逃げるよ……」
だが、男はそれでも止まらない。血管を破裂させかねない勢いで顔を紅潮させて海翔へと掴みかかってくる――が海翔はそれを予見していた。元々、七海の肩に手を回して歩いていた状態だ、すぐさま七海を庇うように男へと向き直り掴もうと伸ばされた男の手を逆に掴み取った。
「……まだなにか?」
海翔の声が軽薄なものから元に戻る。男の怒鳴り声とは対照的な落ち着いたものではあったが男に向けている視線も声と共に敵意に満ちていた。
「なんだその目は……き、貴様はこの小娘のなんなんだ!?」
「……俺はその女の子の……だ。そいうわけで、さようなら」
「まて、その小娘を置いて行け!私とその小娘との話しは終わっていない!!関係のない赤の他人は帰っていろ!」
「関係なくはない。おれはその女の子の……」
「名前も呼べない小娘がなんだというのだ!?」
「俺は七海の――」
「どうでもいい!わたしはその小娘に話がある。その小娘を渡せ!」
『知り合い』か『友達』を装うために『七海』と呼び捨てするのに割と勇気をふり絞ったのだがそれを遮って男は再び唾が飛び出そうな勢いで捲し立てるのを再開した。
「この公衆の面前で一方的に怒鳴りつけて……『話し合い』ってなんなんだよ?」
「この小娘の言い分等、聞く必要はない!!この娘は私に償いをさせなければならないのだッ!!」
「……償い?」
男の口から吐き出された『償い』という言葉――その言葉に海翔は胸を突つかれるような嫌な感覚を覚えた。そしえ、ふと背後へと押しやっておいた七海の方へと視線を向けた。だが、目と目が合う瞬間に七海は後ろめたそうに海翔から視線を反らしてしまった。
最初のコメントを投稿しよう!