第3話 河馬 -アーマードフォーム-

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  「わたしの会社はこの小娘の親に会社をつぶされたのだ!!その金で贅沢をしているこの小娘に復讐する権利が――」 「もういい。黙れ……ッ!!」    あまりにも身勝手な言い分を海翔は最期まで言わせることは無かった。目一杯広げた掌を男の顔に叩きつけ握りつぶしかねない勢いで頬を掴んだ。 「ゴッ……ゴッ!!!?」  男は口を開けようとするが締めつける海翔の指に締め付けられ、口を開く事すらできずに音だけを発するだけだった。そして、海翔はこれ以上触れていたくなかったからなのか急に手を離した。  抵抗していた所から急に手を離されて男はその場に勢いよく尻餅をつく。海翔は七海のもとへと駆け寄ろうとする。だが、その時ポンっと何かの抜けた音がして一瞥した。 「なっ……!?」  男の手に握られているもの――それを確認した瞬間、海翔は考えるより先にに七海の方へ身体の向きを切り替えて地面を蹴った。血相を変え、立ち尽くしている七海に向けて『伏せろ!!』と叫んで七海に覆いかぶさろうと飛び込む。だが、それよりも先に手の中のもの――『グレネード』がに地面へと放られた。 『大洋――』  だが、先に橋に叩きつけられたグレネードが炸裂する。その瞬間、眩い閃光と耳を劈く轟音が響き渡り辺りを包み込み、そして――沈黙した。 ―― ―――― 『――――』  頭の中に雑音が響いた。世界の音も、大切な人の声も――形を失った音となってしか再生される。  目の前で大切な人が血まみれになってそれでも尚、何かを伝えようとする。だけども、命を振り絞って出された声は擦れて雑音に成り果てている。  聞き取れなかったわけではなかった、確かにその言葉は七海の心に届いた。届いた筈のその言葉は七海のなかで『壊れていた』。だから、残ったのはこの場面だけだ。 『――――』  容量を越え、器に収めきれない記憶は無機質な記録と成り果てた。それが彼女の中で自身を守るためのシステムが働いた結果だったのだろう。だが、ノイズ混じりでも『記憶』は彼女を蝕むのには十分だった―― 「……!?大丈夫ッ!?」  だが、突如として明瞭な声が耳に飛び込んできた。その瞬間、ノイズの掛かった視界が一瞬だけブラックアウトして次にその視界には少年の――大洋海翔の顔が映り込んだ。  「キャッ……!?」「わッ!?」
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