第3話 河馬 -アーマードフォーム-

21/44
前へ
/223ページ
次へ
「そんな……バカな――」  男は末期の力を振り絞って銃口を七海に向ける。だが、引き金を引くことはかなわず銃を握った手は力を失った。誰の目にも明らかな一人の男の幕切れだった。 「あ……」   自分の足元に転がるユニの小さなボディから煙が上がっているのが見えた。それが、自分を弾丸から庇って出来たものだというのを理解するのに時間はかからなかった。それと同時に男の頭がユニから跳ね返った弾丸に貫かれたものだとも理解した。  ≪ニュ……≫  ユニの電子の鳴き声が「出過ぎた真似を申し訳ありません」と謝罪の意を伝えてきた。もちろんユニによって命を助けられたのだからそれを咎める気はない。でも、それと目の前で人が一人が死ぬのを目の当たりにして衝撃を受けないというのは話が別だった。  叩きつけられた『衝撃』は七海の記憶の蓋を揺さぶる――立ち眩みが起きて、足元が覚束なくなる。次の行動を考えることも出来ずに無防備にもその場へ崩れ落ちてしまった。 『……逃げろ……逃げるんだ!!頼む、他人を気にしないで……自分の心配だけを――』 『うるさいぞぉ!!』  立ち上がれないままの七海を動かそうとする海翔は叫び続ける。それが耳障りだったのか、ソードチップは再び剣を振り下ろした。だがその時ウエイブは身体を転がてその一振りを躱した。  剣先はコンクリートに叩きつけられて止まる。ウエイブは転がる向きを反転させ、勢いをそのまま乗せて首筋に向けて蹴り込む。ソードチップが呻き声を上げて身体を大きくよろめかせる間にウエイブは跳ね起きて崩れ落ちた七海の元へ駆け出した。 『くそっ……!!』  力なく崩れ落ちた七海は呼吸を乱れさせて肩を震わせている。自分の命を狙い、差し伸べた手を踏みにじった挙句自分の打った弾丸が跳ね返ってそれに貫かれた男――自業自得も良いところだがそれでもその事実が七海へ衝撃が与えられたのは海翔でも理解できた。 『立つんだ……目を覚まして!!』  海翔は走りながら声を挙げ続ける。その声は確かに七海に届いていたのか瞳は声を辿ってウエイブの姿を見つけた。だが、その瞬間ウエイブは七海の視界から弾き飛ばされた。 「え――」  七海には何かが風を切るような音ともに太く撓る長いものがウエイブを弾いたように見えただけだった。それがどこかから伸びてきたものかを確かめるより先にウエイブを目で追っていた。
/223ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1068人が本棚に入れています
本棚に追加