第3話 河馬 -アーマードフォーム-

23/44
前へ
/223ページ
次へ
『くく……水風船か何かか?』 『くっ!!』  もういちどグリップレバーが押し込まれてエネルギーが充填され一度途切れた水撃弾再び撃ちだされる。だがミューラーに直撃してもその進行は止まらずゆっくりと歩み迫ってくる。 「大洋くん……わたしのことはいいから……もう逃げてッ!!」 『――ちょっと、黙ってろッ!!』  七海の言葉に少し怒りを覚えながらも水撃弾を放ち続けた。だが次の瞬間ミューラーの掌が突き出され、斑色の濁った電流が迸りウエイブの水撃弾を撃ち破りウエイブを捉えた。 『がぁッ!!』 「あぁっ……」  着撃した電流がアーマーを奔り火花が舞い散った。水撃弾が止むとミューラーは一気に距離を詰めた。ブレイガンの銃口が至近距離で付きつけられたが発射するより先にウエイブの手から叩き落された。 『ッ!』  ブレイガンが拾われるより先にウエイブの拳がミューラーに突き出された。だが、容易くミューラーの掌に受け止められ電流が迸った。 『ッ……ぐぁぁあッ!!』  電流に蝕まれる海翔の苦悶の声が響き渡った。それに加えミューラーの電撃を乗せた拳がウエイブの身体へ何度も叩き込まれてゆく。拳の一撃、一撃の度に電流が迸るその音が凄まじさを物語る、だがウエイブはダメージに耐え変身を保ち続ける。 『装甲が熱くない割には意外とタフだ……成程、『ウエイブ』の力ではなく中々骨のある奴――これは最大出力を――』 『試すのはいいが、小娘を巻き込むなよぉ?大事な商品だからなぁ』 『えぇ、分っていますよ――』  ミューラーの掌がウエイブの首根っこへ伸ばされ掴みとった、握りしめ殺すのは難しいだろう。しかし、ミューラーはそうしようとは考えていない、その状態から堤防を蹴った。ミューラーの身体はウエイブを掴んだまま跳びあがり海面の真上にまで上昇していく。 「たいよう……くん……」  七海の目は海翔の姿を追っていた。だが、海面の上で電撃状の波動がスパークするのと同時に眩しさのあまり思わず目を閉じ、轟音と共に駆け抜ける衝撃の余波に煽られてその場に倒された。けれどすぐに目を開けて海の方へと目を向ける――すると、目を閉じた海翔が海に落ちた瞬間が目に入った。 「あ……あぁ……!!」  声を震わせてながら七海は再びその場に崩れ落ちた。理解してしまった事実は男の死を目前にして傷を負った七海の心へさらに深く抉り込んだ。
/223ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1068人が本棚に入れています
本棚に追加