第3話 河馬 -アーマードフォーム-

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「ッ……あ――ぁ!!」  あてがわれたクリスタルからラルフは手を離した。だが、クリスタルは尚も七海から落ちることはなかった。そして、七海の慟哭に同調するかのように禍々しい光を放つ。  それに伴い涙を流して泣くだけだった七海はラルフに手を離されると倒れ込んだ。 「あぁ……ひゃっ……あぁ……」  倒れ込んだ七海はクリスタルをあてがわれた胸を手で抑える。  クリスタルを中心に広がっていく感触。それは、まるで身体の中を虫が這いずり回るような気色悪さや痛み。それらが神経を伝って全身に伝播する。 「ぁ……ひぅ……やぁ!!」  身体中の筋肉が引きつったようだった。目を見開かせ、唾が口の端から垂れ流し声は喘ぐようなこえしかでなくなり、手足は痙攣し震えてまともに動かすことが出来ない。  一人でに引きつり始めた筋肉は大きな痛みを伴い始める。その苦痛に呼応するかのようにクリスタルを染め上げている禍々しい色を濃くしてゆき何かが漏れはじめて、溢れた。 「くっ!?」   『ッ!?』 クリスタルから溢れ出した『波動』は禍々しい色に染まった突風となって周囲へと吹き荒んだ。その勢いに二人は身じろぎそうになって踏ん張り、改めて七海に視線を向けた。 『これは……!?』 「成程……『コレ』の為か――わざわざ人間と手を組んだのは!?くく、これなら奴等は取り返さないわけにはいかないなぁ!!コイツは間違いなく奴等への切り札になる!!」  溢れだした波動の風に触れる。味わうようにその波動を『質』を確かめてラルフは感嘆の声を上げてその質に震えていた。 『この世界』にきてまさかお目に掛かれるとは思えなかった。『自分達の世界』ですら感じたことのなかった。言いようが無いがそれは強く、禍々しく――そして、それを自分の物に出来るという事実に震え、歓喜する。 「ぁ……ぁ……」  ラルフが歓喜する一方で、その声は七海に届いてはいなかった。彼女の頭の中で響くのは外からの声ではなく自身の内側からの声だった。それらは自責の念であり、罪悪感であった。  自分のせいだ。  大人しく死んでおけば助けられることもなかった。  それらの想いは彼女の身体の痛みを凌駕し、内側から破りかねない程に膨れ上がる。それらの情動は波のようにタービンを動かすようにクリスタルから波動を生み出し流れ出し禍々しい波動は精神と同じように七海を塗りこめていく。 
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