第3話 河馬 -アーマードフォーム-

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 眼が見開くあまり白目を向きそうになっても辺りを覆い染める波動が目に写り込みもしない。声と同ように外界の情報ではなく彼女自身の内側から溢れだす情報が形になるのみ。  ノイズの入った記憶、色を抜いた上に下書きも擦れたような結果と事実を書き記し束ねた上で彼女の心へと、彼女が彼女自身の手によって抉り込むように深く突き刺された楔。  彼女の心へ亀裂を与えながら、繋ぎとめる相反する役割を兼ねるもの。 「ぅ……ゲェッ……オッ!!」  再び脳裏に手フラッシュバックするあの時の『瞬間』。突如として口の中に血の味が広がって、胸が詰まり胃がひっくり返るような感覚と共に液体を吐き出した。だが、ぶちまけられた吐瀉物には血は混じっていない。 「ハァ……ハァ……ッ」  血塗れの■■。  青い海に沈んでいった海翔。  嘔吐により抜け出た吐き気の跡を埋めるかのように贖罪の念が湧き上がって来る。その思いは自分を守ってくれた二人の人へと、自分の存在を否定せずにはいられなくなっていく。  自分さえいなければよかった、そうすれば誰も傷つくことはなかった。  そんな思いが膨れ上がって、弾けそうにって――青い光が瞬いたのが見えた。 「あ――」  ウエイブと同じ青く清い波動を放つ青い光――突如として目に写り込んだその優しい光はまるで人の姿をしているようだった。そして、差し伸べるかのように優しく手が向けられた。 「あ……あぁ……!」  そんな資格はないと分かっているのに七海は手を伸ばさずにはいられずに応えるように手を伸ばして、光に触れた―― 「あ……」  だが、触れた瞬間に光の人は消えた。そうして自分なんかが縋っていい資格などないという確信はより強いものになる。だが、差し伸べられた光に向かって伸ばしたままだった手の先に光がみえた。  伸ばされたままの手の先にある光はドライバーにセットされたままになったのプレートのものだ。その光の在処は自分の内側から『戻って来た』ということを意味するのに七海は自分でも気付いていなかっただろう。  ただ、少しだけ目が覚めたような気分がした。それが吐き気を解消したせいなのか、あの光に触れたかのどちらかなのだろうかは分らない。  確かなのはあの光を――ただ、自分に救われる資格はない。それを受け取るべき人間は他に居る、そしてそれを届けるのが自分の役割なのだと。    
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