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「……ッ」
自分が海に叩き込まれた音以外に海翔の耳には何も聞こえなくなった。
身体中が痛み、浮遊感と共に身体がゆっくりと沈んでいこうとしていることが分かった。
―なんて……ザマだ―
地上に七海は残されたまま。そして、このままでは死ぬ。死ねばもう二度と浮かんでこられないか水死体となって浮かび上がってくるかのどちらかだ。
このまま大人しく死ねるわけもない。生身だろうが隙を見てドライバーを取り返す――だが、まずはこの海から浮上しなければならない。だが、海は凍てつくように冷たく消耗していた身体から更に体力を奪って意識を揺るがしていく。
「……!」
このまま浮上した所で勝てる算段を立てられない。仮定した結果を覆そうとしても材料が足りない。焦りが彼を止まらせる、動けなくしていく、そうしている内に体温が奪われて息も苦しくなってゆき胸を抑えた。
だが、その瞬間そとから何かが水を割る音がした。
『え……?』
水で割って飛び込んできたものを見た時、驚かずにはいられなかった。見間違いではなかった、自分が守ろうとした少女がその手に『チカラ』を持って、泣きそうな顔をして――ここが海の中でなければ彼女の目から流れていたのが見えたに違いないだろう。そんな顔をしながら、がむしゃらというか無我夢中に不器用に腕を水平に開閉させて水をかき海翔の方へと向かっていた。
「……ッ!!!!」
この冷たい海の中だというのに目頭が熱くなるのが海翔は感じた。
情けなさすぎる。
助けるつもりで――いや、そんな殊勝なこと考えてすらなかった。見殺しにするのが、目の前で死なれるのが恐かった、罪悪感に囚われるのが恐かっただからだ。それなのに彼女は武器も持たないのに、ドライバーを取り返すのは命がけだっただろうに――
「……ッ!! 」
だが、後悔するのは後だと海翔は気付いた。しなければならないのは後悔するよりも七海の行動に報いること。
それを自覚した時、息苦しさも冷たさも隅へと追いやられた。肉体的な限界を迎えるまでのわずかな間が勝負、海翔は七海へ向かうために水を蹴った。
後悔せずにはいられなかった。七海が飛び込んでくるまでの間に考えるよりも先に海面に向かってもがけば良かったと。少しでも確実な方法を思いつこうと雁字搦めになってしまっていた自分を呪った。
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