第3話 河馬 -アーマードフォーム-

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『ごめん……少し、ここで待ってて――』  意を決して球体へと手を翳す。海に溶け込む波動とのシンクロの発動により得た経験値により向上したウエイブの制御、処理能力。それと波動―オーシャニックウェーブ―の水への浸透する性質を利用しウエイブが離れた僅かな間だけこの球体を維持させるように構成を組む。普通の電気と違い拡散しやすくなるとは限らないのがオーシャニックウェーブの性質だ。 「大丈夫、見捨てても恨まないよ……自分の事を一番に考えて――」 『ッ……』  何か言ってやれる言葉がある筈だ。そう思ったのに何も言えないのが悔しかった――だが、そう思っていられる暇はなく球体から手を離した。  カウントダウンが始る、それを合図に海翔の意識は切り替わった。邪魔な感情――後悔、自分の非力さ、甘さへの自責の念――それらを今はすべて切り捨て七海を守るために前の敵を討つことへ集中する。そのためにまず、自分自身を確かめた。 『能力は把握した――』  そして、七海を保護する球体から距離を取り始める。敵が接近してきているのは感じ取れてたのだ。あの球体は防御性能は高くない、巻き込むのを防ぐためにウエイブは近づいてくる気配を目指して発進した。  ―― ―――― (なんて速さだ――海中をあのスピードで)  振り切っていったウエイブの後を追ってラルフは海中を進んでいる。スピードは海中にしてはそこまで遅くはない、それに対するウエイブの推進スピードが海中では有り得ないスピードだったのだ。それを裏付けるように折り返してきたウエイブの姿がラルフへ近づいていた。  青く透き通った波動を纏ったその身体は今この中で誰よりも速く、翼をはたかせる疲れもない分鳥が空を飛ぶよりも楽に海を突き進みラルフへと迫っていく。 『くそがぁ!!』  ラルフの身体中の触手が総動員され展開される。先程とは違ってウエイブはラルフを標的に見据えて突っ込んでゆくことなり、逃げる時と違い振り切ることは出来ない。だが幾本もある触手が威力を出すためにはふり幅が必要となり、触手の群れは目の合ってない網も同然だった。 『ツァ!!』  懐まで辿り着き、拳が突き出された。一切の減速なしに触手を躱してきたことにより着けられた勢いが乗せられラルフを捉える。衝撃を吸収する厚柔な身体を貫かんと手は手刀を構えた上に青いウェーブを乗せた手刀の形を持って打ち込まれる。
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