第3話 河馬 -アーマードフォーム-

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『いくら切っても同じか――ん?』  黒い靄がラルフを中心に黒く濃い靄は広がっていくのが目に入ってくる。靄はラルフの姿を隠すだけでなくウエイブの視界をたちまち覆いつくしていく。 『馬鹿め――!!』  そのウエイブの下方をラルフが通り過ぎる。  ラルフの中でウエイブは七海を捨てたことになっている――ならば、ウエイブよりも先に七海を確保する、とは言えウエイブの機動力を目視された状態では逃げ切れると思っていない。  だから、こうして煙幕にまくことで―― 『ッ!!』  次の瞬間ラルフは背後から押し寄せる恐ろしく冷たい気配、それと同時に痛みが全身へと奔るのを感じた。 『逃がさない――』 『ぐぉぉぉっぉぉっぉ!!!』  更に冷たい声が耳元に届いた。怒り等の感情など微塵も籠っていない純粋で研ぎ澄まされた殺気――ラルフは戦慄し文字通り振り払うために触手を振り回す。  黒い墨を広げている以上攻撃が当たったかどうかの手応えは触覚頼りだ。そして、手応えを感じることはなかった。 『ごぁッ!!!』  だが、次の瞬間連なる衝撃が撃ち込まれラルフは確信した。ウエイブは位置を索敵、そればかりか攻撃さえも正確に察知していることを。  何らかの方法――間違いなくウエイブの……正確にはウエイブに流れる波動の大元といえる存在が持っていた能力。それを開花させ行使したという事。 『……』  鯨類――その一種にはある能力が備わっている。そしてイルカに類似し、波動を身体に流れている生物がウエイブの力の大元である。そして、波動が流れていないただのイルカでも持ち、ウエイブも持つ能力がある。 『はッ!』  光の届かなくてもそれは関係ない。自らを起点に超音波を飛ばして物質へぶつけその反響により状況を探索する『反響定位』と呼ばれる超能力でも何でもないイルカにコウモリなら多くが持っている能力だ。  跳ね返って来た音波が脳裏に正確なシルエットのビジョンを描き出していく。それはこちらの攻撃を撃ち込み攻撃を避けるには十分なものだ。むしろ攻撃を避ける分には360度を察知できるという利点がある。  おまけにラルフは自身の出した墨でウエイブの姿を捕えることは出来ない、仕留めるには絶好の絶好の機会だろう。慎重になりすぎるのはさっきの過ちの繰り返しだが当てずっぽうに振り回している触手は懸念すべきなのは変わらない。
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