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「あ、あの……」
「静かに……」
ウエイブの力であの場から離脱してから海翔が持つところまで『跳んだ』。その後はぐしょ濡れの身体で一番近い場所である海翔の家へと『裏口から』駆け込んだ。そして、手を引かれるままに現在地である風呂場に続いた洗面所にまで連れて来られていた。海翔は暖房を着けると風呂場へ上がり込むと浴槽へ湯を張り始めてから七海の方へと向き直る。
「君が先に入って」
「え、だけど貴方の方が疲れて――」
「平気。ここ俺の家だから身体を拭けるし。それに、着替えとかタオルとか調達する必要あるでしょ?重要なのは効率だよ、効率」
気遣いで順番を決めようとすれば間違いなく堂々巡りに落ちるだろうと思って海翔は彼女の気の弱さを利用することになるのは悪いと思ったが風邪をひかせるのはもっと申し訳ないので『効率』を強調する。
それが効いたのか渋々と言った様子で頷いた。海翔は「服を貸しすから髪と身体はしっかり洗って。風邪ひかれると困るからゆっくりと身体を暖めて」と念を押して洗面所から出て行く。
海翔は店側を介さずに生活空間である二階へと登り、バスタオルとジャージを一着と姉の下着類を拝借して再び降りてゆく。そして、ハプニングやアクシデントの回避のために洗面所の扉を叩いた
「だれー?」
「げぇ、ねえさん!?」
「あれ――海翔?」
ガラッと洗面所の扉が開かれて海花が顔を出した。海翔は咄嗟にバスタオル類などを後ろへと隠した。バスタオル類はともかくとして無断で失敬した下着類はいくら弟でも不味い。
「あれ……大学はどうしたの?」
「午後の授業が休講になったのよ……て、海翔じゃなかったら誰がお風呂入ってるの?」
器用にも後ろに手を回しながら下着類をバスタオルの中に畳み込む事に成功はする。だけど海花は訝しげに海翔の目を覗き込んで更に後ろに隠したバスタオルに目を付ける。
「あんた……さては――」
どうしたものか――七海は洗濯機に自身の濡れた服を入れ込んでくれたのかまだバレてはいないようだった。だが、海翔は余計に話が余計な方向へ飛んでいくような嫌な予感が――
「さては犬か猫でも拾って来たんでしょう!?」
「……」
バレていない。だが、割とどうでもいい。海花は既に風呂場の扉に向かって手を伸ばしていたのだ。次の瞬間、海翔の身体が極限状態とは思えない速さで海花と浴槽の扉の間に回り込んでいた。
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