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「あの……なんで謝るの?」
座りなおした海翔に顔を近づけて手を口の近くに当ててヒソヒソ声で話しかける。海翔もまた同じように小さな声で言葉を返す
「だって、君が海に飛び込んで助けてくれなかったら俺……」
「それは、わたしだって同じ……それにわたしが助けられたのは一回だけじゃない」
「こういのは回数の問題じゃ――ッ」
小声で話しているつもりだったが互いに『自分の方が悪い』と言って聞かずに譲らない。海翔の声は少しずつ小声でなくなり、七海は弱弱しい態度が変わらないまま折れなかった。
「どうしたの?大丈夫、二人とも?」
だが、そこに海花が口を挟んできた。傍目から見てそんなに穏やかでなかったのか、二人とも席から身を乗り出していたのに気づいて座りなおした。
「とりあえず、落ち着いて。ほら、何か飲み物いれようか?」
「わ、わたしは……遠慮しておきます」
「俺も遠慮しとく。気分じゃない」
少しばかり残念そうな顔をして、口を尖がらせる。
「まぁ、いいけど……別にいいけどぉ……。そうそう遠慮で思い出したけど、『友達同士』で遠慮するのは程々にしときなさいよ」
『え?』
『友達同士』という単語に二人同時に反応を示して声を重ねていた。そして、海翔は七海の反応が気になったのか七海の方へと目を向けていた。
「あ、あの……」
「ええっと?」
七海の顔を見つめる海翔の顔というか目が泳いでしまっている。落ち着いた印象が形無しというか姉の存在はどうも海翔にとっては天敵らしい。
彼女と比べると海翔は引っ込み思案にも見える。クールに思えなくないはそのせいか。気取ってるわけでもないのはもとから物静かな性質なのだろうと七海は思った。思い返せば、人並みにしゃべっている気がする
「友達……だけど……でも――」
一人でボソボソと呟きながら頭を抱える――と見せかけて七海にだけ見えるようにスマホのテキスト画面を見せる。
「あのさ……君は俺と友達でも構わないのか?」
そこには「嫌いあってもいがみ合ってもいない二人が頑なに友人関係を否定するのは不自然に見えるかもしれない 話を合わせて」と打ってある。
「う、うん……」
「友人だから助けたという事にしよう――俺達で貸し借り勘定をしたら不毛極まりないようだ」
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