序章 ―見知らぬ少女―

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「グワぁ……。」  人間が発するとは思えない声が暗闇に響く。踏み込んで後ろに下がろうとした時には、胸に長剣が刺さっていたのだ。刀身を伝う赤い液体は、重力に逆らう事なく滴り落ちる。まだ温もりの消えない男は、胸から刀身が抜かれると同時に崩れ去った。  それと同時に降り下ろされる湾曲刀を一凪(な)ぎで弾き返す。それだけではない。背後からも空を切る音が襲う。少年は身を翻(ひるがえ)し、湾曲刀の刃を弾く。前後からの攻撃。二対一の戦闘だが、少年は二人の攻撃が見えているかのように、的確に対処していく。攻撃の時間差を上手く調節しながら剣を弾く。常人には到底為せるような戦闘ではない。  左から振り落とされる湾曲刀を弾くと、その勢いで逆に回転する。そのまま右にいた男の頭めがけて横一文字に長剣を振るう。しかし、頭に当たる寸前に湾曲刀が邪魔に入る。  そして背後からもう一つの攻撃。遠距離用の大型魔法『レイ』だ。 直径は人間をゆうに飲み込む程の太い光線を高速で打ち出す光属性の魔法である。  光線が 少年の背中めがけて迫っていた。暗闇に少年の濃い影を作り出す光線。 「ちっ……」 剣を交えていた男を、剣で弾き飛ばす。男は綿毛の如く宙を舞い、闇の中へ消えていく。
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