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今季は春。
まだ冬の寒さが残っているのか、冷たい風が俺の体温を下がらせる。
「さっみぃ~……」
誰も居ない屋上で、この言葉が妙に――気味悪く響く。
他人から見れば、虚しい光景だが、俺からして見れば幸せな一時だ。
……と、言うより疑問に思った方もいるだろう。
何故、俺は如月武術探偵学院本館の屋上に居るのか。
別に俺がこの学院の教員でも用務員でも無い。
つまりは俺はこの如月武術探偵学院の生徒って事だ――これからだけどな……。
「はぁ~……嫌だなぁ……」
軽く溜め息混じりで言う。
微かに白い息が、風に流されてしまう。
俺も風に流されたい……。
そう思うと、また溜め息が出てしまう。
「何朝っぱらから、一人黄昏ているだ?」
「あっ……」
急に、クールな口調な女性の声が聴こえ、俺はその方向に顔を向かせた。
屋上から突き出た真四角な壁にある扉の近くに黒いスーツ姿が似合う女性が腕を組んで立っていた。
スーツからは真っ白なシャツの襟が出て、袖や裾からも同じように出ている。
如何にも、何処かの会社に居そうな女社員か秘書だ。
「別に…黄昏て何かいねーよ」
俺は少しだけその女性を見て、また青い空を見上げつつそんな言葉を口にした。
コツコツと、屋上の床を彼女が履いているブーツの足音を響かせながら、女性は徐々に俺の方へと近付いてくるのが分かる。
そして、女性は俺の隣で立ち止まり、俺と同じように空を見上げた。
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