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 そう思うくらいにドキドキする。  そしてそんな私を余所に、真剣な表情に切り替わったお兄さん。  私を閉じ込めたまま口を開いた。  「やっと、聞ける。名前―――」  「あ……」  最後の日。  聞きたくて止めたこと。  あの時、お兄さんもそう思ってくれてたんだと思うと顔が綻ぶ。  願掛けの一つだった。  次に逢う時まで、名前を聞かないでおこうって。  お兄さんもそう思ってくれてたのが分かって、嬉しかった。  黙ってしまった私をさらにグッと引き寄せて  「ホラ、言って?」  優しく尋ねる。  私はごくりと唾を飲み込み、  「池波琴莉(いけなみことり)」  ゆっくりと自分の名前を口にした。  初めての自己紹介。  初めての個人情報。  そして私も尋ねた。  「お兄さんは?」と。
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