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 否、掴んだという表現は正しくないかもしれない。  その青白い手がコートの裾の端を掴んだのは一瞬だけで、後は指先でひらひらと弄んでいるだけであったからだ。  赤いコートの中にも色々と着込んでいる女性は、自らの置かれている状況に気付く事無く携帯ゲームに没頭している。  毎朝同じ電車の同じ車両で顔を合わせているのに、私はどうしても、その女性に声をかける事が出来なかった。  手――私は、女性のコートをまさぐる手の主を探して車両中央方向に顔を向けた。  この手の通ずる所に、私の、私達の敵がいる……  出来れば見たくない、けれど見ない訳にはいかない。  私は、遂にアイツの正体を知った。  青白い手の持ち主は。  黒リュックを背負い、度の強そうな眼鏡を掛けた男、つまり私が最終候補に絞った男性4人の内の1人  「男性C」であった。
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