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「ちょっと凛子、何よソレ」
玄関のドアに手を掛けた私を、母の尖った声が制する。
振り返ると、母は私のスカートを見ていた。
……思った通りだと私は溜め息を吐く。
「あたしなりの痴漢対策だよ」
「馬鹿じゃないの、何考えてるのよ」
明らかに母は怒っている、私の短くなったスカート丈を見て。
短くなったといっても、膝ギリギリ上位だったスカートを1回多く折っただけだから一般的な女子高生よりは長い。
具体的に言うなら、膝上8センチ位だ。
「実験。今日だけだってば…じゃ時間ないか――」
「直しなさい」
時間ないから、と言いかけた私を遮って母が言う。その有無を言わさぬ口調からここで争っても仕方ないと判断した私は、渋々スカートの折りを一段直した。そしてそのまま家を出る。
本当に時間がなくなってしまう。
「駅着いてから折り直すんじゃないよ」
ああ流石に私の母。
私の意図をしっかり読んでいたのか。
返事もせずに自転車に跨がる。
急な登り坂に苦労しながら、心の内で母に謝る。駅に着いたら、膝上8センチ位までスカートを折って電車に乗るつもりだったから。
お母さんごめんなさい。
私は、自分の事は自分で考えます。
――電車の扉が開く。
私の目は迷う事無くアイツを捉える。
アイツの目も、私を見ていた。
今迄その視線に気付かなかった事が信じられない位、真っ直ぐに見ていた。
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