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 その衝動が何だったのか、一体何処から来たのか、私は今でも分からない。  けれど私はその時、確かにそう思ったのだ。  単に満員電車の鬱屈がアイツに向かっただけの事かもしれない。  単に学校に行きたくない気持ちがアイツに向かっただけの事かもしれない。  単に私は前からそうしたかったというだけの事かもしれない。  私は、緩慢な動きを続けるアイツの手に向かって自分の左手を近付けた。  無論顔も目線も前を向いたまま。  自分の感覚だけが頼りだった。  次の瞬間、私の左手はアイツの右手首を掴んでいた。  …これでもう、後戻りは出来ない。
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