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水面に掬い上げられた魚の様に、アイツの手が私の手の中で暴れ回る。
今迄の触り方からは想像も出来ない位の強い力だった。
元々強くない力でアイツの手首を掴んでいた私の左手は、いとも簡単にふりほどかれてしまう。
私は手が伸びてきた左後方を振り返る。
電車が揺れた時に私とアイツの間にいた人々が少し動いたのだろう、先程までサラリーマンの横顔が見えていた位置に、アイツはいた。
私が今日迄見て来たどんなアイツよりアイツは挙動不審で、明らかに私の行動に戸惑っていた。
そして正直な所私自身も、自分の行動に戸惑っていた。
それを知ってか知らずか、アイツは暫く目を白黒させた後、何事もなかったかの様に落ち着きを取り戻し下を向く。
決して私の方を見ようとはしない。
アイツは本当に、「何事もなかったかの様に」振る舞うのが得意な様だった。
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