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 私は、右手をブレザーのポケットへ入れると、ブラインドタッチの要領で、ポケットに入っていたウォークマンを操作する。  10回程の操作の後に中央の一番大きなボタンを押すと、イヤホンから流れる音楽が変わった。  東京事変の、「喧嘩上等」。  2分22秒の曲で、私は自分を奮い立たせる。私がここで尻込みしていては、現状は変わらない。  乗りかかった船だ、最後までやり切ってやる。  『今宵は常套句なんて通用しないと思え』  そのメロディーと共に、私の心は決まった。  曲の終わりと同時に、電車は終着駅のホームへと滑り込む。  ホームで待つ人々の寒そうな表情から目を逸らした私は、再びアイツの方へと振り返った。  「あの、すみませんが」  イヤホンを耳から抜いて声を発する。  掠れた声だったが、アイツが此方を向いた。  「ちょっと、付いてきて頂けますか」  あくまで断定口調を心掛けて言う。  アイツは一度だけ、天を仰いだ。  けれどそこにあるのは、薄汚れた田舎の単線電車の低い天井だけ。  「付いてきて下さい」  私はもう一度言う。  「――はい……はい」  結局目線を下げたアイツがそう答えた途端、電車の扉が開いた。  人の波に押し流されつつ私は思う。  この乗客達は例外なく皆、私達のやり取りに全く無関心だったなと。  それが喜ばしい事なのか悲しい事なのか、私にはわからなかった。
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