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 AM7:30。  私は、終着駅の駅員室で椅子に座っていた。  電車から降りた私は、アイツが出て来るのを待って一緒にこの駅員室へ来た。  いかにも人の良さそうな坊主頭の駅員さんは私の姿を認めると、笑顔で「どうか致しましたか?」と問い掛けてきた。  私は何と言えば良いのか考えたが、結局気の利いた言葉は考えつかず、率直に「この人に、痴漢行為をされたのですが」と言うに留まった。  駅員さんの笑顔が、固まる。  それで私は、少し申し訳ない気持ちになった。  「……で、ではとりあえず貴女は中へどうぞ、そのぅ……寒いからね。あ、スギヤマ君、ケイサツ。警察呼んで……」  駅員さんに手招きされ、私は駅員室に足を踏み入れる。  入れ替わりに出て行った若い駅員さんは、アイツの見張り番といった所だろうか。  時刻表や書類の束が散乱する机が殆どのスペースを占める駅員室は、6畳程の広さだった。  対応してくれた駅員さんを含め、中にいるのは3人。ストーブが程良く効いた暖かい部屋で、それぞれ忙しそうに仕事をこなしている。  さっきからおろおろしっ放しのこの駅員さんとて仕事があっただろうに、本当に申し訳ないと私は思う。  警察が来てくれたのは、通報から10分が過ぎようとした頃だった。
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