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 「じゃあ、この紙に住所と名前、学校名、あと保護者の方のお名前を書いてくれる?」  私に紙とボールペンを差し出しながら言う婦人警官。  学校名など果たして本当に必要なのだろうか…私は思ったが、あえて訊くのもはばかられるので返事をしてから大人しく記入する。  「保護者は…お母さんだけ?」  声を掛けてきたのは、駅員さんと防犯カメラの映像をチェックしていたはずの、初老の警官だった。  防犯カメラといっても、駅のホームの映像である。私の後を付いて来るアイツがそこに居ることに、何か意味があるのだろうか。  「はい、母と二人暮らしですので」  私は手を止めて答える。  父親だった人物は、私の受験期真っ只中に家を出て行ったきり居場所が判らない。  「そうか…ん、君、高校受験頑張ったんだなぁ」  今度は高校名に目を留め、呟く警官。  幼い頃から入学する事が夢だった高校、誉められて嬉しくないはずはないが、この高校に進学していなければ私は今こんな目に遭っていない。  そう考えると、複雑だった。
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